有楽町の駅前で多くの人の足元を磨き続けて17年。現在は、交通会館1Fの三省堂書店前の広場でお店を構える靴磨きの「千葉スペシャル」だが、実は一時期、閉店の憂き目にあっていた。
世の中の流れなのか、都条例の規制によって“路上での商売”ができなくなってしまったのだ。
千葉スペシャルで総務を担当する皆川隆さんが当時を振り返る。
「路上がダメになってしまい、一時期は車を駐車してそこで商売をしていたんですが、それもダメと言われてしまいました。その頃、常連のお客様からは、『いつ再開するんだ』という問い合わせもいただきまして、交通会館で空いた店舗に出店するとお話していましたが、なかなか店舗も空かずどうしようかと思っていたんです。
そうこうしていたら、常連のお得意様の再開して欲しいという要望が、交通会館へも伝わることとなり、うれしいことに幹部の方の鶴の一声で現在の1F広場で再開することができたんです」
千葉スペシャルの再開を熱望し、陰となり支援したお得意客のなかには、アパレル大手のユナイテッドアローズの社長や、大手ディスプレイデザイン会社である乃村工藝社の社長などもいた。
「店を再開するにあたり、ユナイテッドアローズの重松会長から『せっかくだから、ユニフォームも揃えたらどうか』との申し出をいただいて、なんとご本人が私たちのユニフォームをコーディネートしてくださいました。さらに乃村工藝社の渡辺社長からは、私たちの商売で大切なお客様のイス、道具箱、我々が座るイスの3点セットを特別にあつらえていただくなど、その他にもたくさんのお得意様からの応援のおかげで、またこうして靴磨きができるなんて、こんなうれしいことはないですよ」
長蛇の列に“偉い人”も並ぶ!
晴れて有楽町の靴磨きは復活したわけだが、何がそこまでお客さんの心を惹きつけるのだろうか。
「靴磨きのなかでも、うちは特殊と言えば特殊です。というのは、靴墨と靴を磨く布は独自に開発したものなんです。店名の『千葉スペシャル』というのは、うちの千葉尊が開発した靴墨の名前です。それで『鏡面磨き』をするんですが、これ自体はどこの靴磨きでもやっていますが時間がかかります。だいたい40分から1時間はかかりますが、うちでは10分前後で仕上げます」
確かに、足元に空の景色が映り込むほどにピカピカに磨き上げられている。ただ、ここまで支持されているのは何か他にも理由があるのではないかと思えてならない。
「うちには、企業の経営者や代議士、有名人なども来ますが、どんな方が来ても分け隔てなく順番は待っていただきます。それに千葉とお客様とのやり取りを見ていますと、お客様と対等に話していますよね。特に人の上に立たれている方は、ともすると組織のなかでは周りにイエスマンしかいないかもしれません。
そんなときに、千葉は靴の手入れに関しても、言う事は言うんですよ、ダメだと。よくそういう社長などをされているお得意様から、『お前のところは飾らないのがいいな』と言われることもありますからね。そういうところも、受け入れられている理由なのかもしれません」
「靴を育てる」こと
皆川さんによると、靴を見ればその人のひととなりも見えてくるという。
「だらしない靴、几帳面さが現れている靴といった具合に、靴には表情があります。それは案外、履いている方の人格も現しているように思います」
「千葉スペシャル」には、大事な商談を控えた営業マンたちも多く来店する。聞けば、験を担ぐ意味もあるそうだが、何よりも相手に与える印象が違ってくる。
「良い靴というのは、何も靴が高いか安いかということではないんです。自分の足に合った靴で、長く履けるものが一番いいと思います」
足に合わずに靴擦れをしたり、そもそも歩きづらい靴はあまり好きになれない。「革も人間の皮膚と同様に、手入れをしっかりしてあげることが大事です。革に墨をよくしみ込ませて柔らかくしてあげるんです。そうすると、自然と靴が自分の足に合っていくんですよ。手入れをしないと長持ちはしませんが、汚れを防止するスプレーとか、コーティング剤のようなものを塗る人もいますが、実は革にはよくありません。
顔の皮膚を考えてみればわかりやすいですが、女性がお化粧を落とさずに寝ると、皮膚が荒れるといいますね。あれと一緒です。しっかりと表面の物を落としてあげて、脂分を含んだ墨を薄くでもいいので、よーくすり込んであげるんです。そうすると革も呼吸ができますし、ちゃんと靴を育ててあげれば長持ちします。
お金のある人が10万円もする靴を履いていても、手入れをせずに放っておけばいずれ履けなくなります。でも、2万円の靴でもちゃんと手入れをしていれば10年は十分履けますよ」
モノを大事にする、誰もがわかってはいるが現代社会では、それを実践するのはなかなか難しい。まずは、足元から始めてみるのもいいかもしれない。
靴磨き「千葉スペシャル」
住所 | 東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館ビル1F 三省堂書店前 |
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アクセス | JR有楽町駅京橋口・中央口から徒歩1分 |
TEL | 03-3872-1866 |
090-8923-0263 | |
営業時間 | [月~金] 9:00~19:00 |
[土] 9:30~19:00 | |
定休日 | 日曜日・祝日 |
URL | http://www.kotsukaikan.co.jp/clinic_service/service/307/ |
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