帝国劇場『ビューティフル』観劇レポート【ネタバレあり】


 

『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』等の大掛かりな舞台が繰り返し上演されている「キング・オブ・ミュージカル劇場」= 帝国劇場で、キャロル・キングの音楽で綴ったブロードウェイ・ミュージカル『ビューティフル』が開幕しました。

今年の『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演を逃した方、これからミュージカル観劇デビューをしたいという方、『ビューティフル』オススメですよ!

※この記事はネタバレを盛大に含みます。すでにチケットをお持ちの方は、舞台を観た後で読んでいただくか、今すぐ読むか、よーくお考えの上でお進みください。

 

『ビューティフル』観劇レポート

 

ストーリーは、かの有名なキャロル・キングがシンガーソングライターとして世界的スターになる前、作曲家時代の話を中心に進みます。1960年代のポピュラー音楽を用いたミュージカルは、『ジャージ・ボーイズ』『ドリームガールズ』『ヘアスプレー』等がありますが、この数年後にはボブ・ディランやビートルズによる新たなムーブメントを控え、レコード業界が相当に面白かった頃のお話。
察するに、記憶に残るフレーズを繰り返しながらキャッチーな振付を繰り出すキュートなボーイズバンド/ガールズバンドが人気を博した(?)時代。まさにミュージカル作品にピッタリの時代と言えそうです!

そんなわけで、物語はキャロルの人生を辿りながら、聞き覚えのある有名な曲や、実在したポップアイコンが次から次へと出てきます。このあたり、実際のドリフターズやシュレルズ、ライチャス・ブラザーズを知っている人にとっては胸キュン&笑いどころ満載。あれもこれもキャロル・キングが書いた曲だったんですね。
作曲家キャロルのパートナーは作詞家のジェリーで、この二人と対比するように出てくるのが、仲良しカップルのバリー(作曲家)とシンシア(作詞家)。4人全員が実在の人物ですが、当時の音楽チャートを賑わせたヒットメーカーである彼らは、ケンカしたり笑ったり、とても人間的に描かれています。4人が慌ただしく創作活動を続ける一方で、ブラウン管の向こうで輝く歌手の皆さんは常にキラッキラのキメ顔。舞台裏の現実とテレビ用スマイルが交互に現れるという対比がいかにも「ギョーカイ」らしく、思わず笑ってしまいます。

客席中が「思い出の中のあのアイドル、あのリズム、あの音楽!」を懐かしく迎え入れて、全身で揺れているような雰囲気。当時の音楽づくりの過程もよく描かれていて、音楽の拠点都市はカリフォルニアではなくニューヨーク、クリエイターはスタジオに缶詰めで曲を作り、完成したらプロデューサーへ持っていくという描写も新鮮で楽しめました。

 

 

キャストは、主人公キャロル役に平原綾香さん(観劇時のキャスト。ダブルキャストに水樹奈々さん)、夫ジェリー役に伊礼彼方さん、バリー役に中川晃教さん、シンシア役にソニンさん。

中川・ソニン演じる腐れ縁のようなカップルは細かなやり取りがいちいちキュートで、本作品のオペラグラス泥棒は間違いなく彼ら!この2人のリアルな人間味は、本作における美味しいダシのように効いていました。

 

キャロルを幾度となく悩ませる夫ジェリーは、情緒不安定で仕事がノってくるたびに「僕たちはどこまでも行ける!」と興奮したりライバルの活躍に落ち込んだりする困った奴なのですが、演じる伊礼さんの甘い歌声が素敵なのはもちろん、もともと劇作家志望でありながら大衆向けの音楽で食べていくことへの複雑な思いや、最後の登場シーンで発する新たな出発を伺わせるひと言など、ただのクズでは終わらせないキャラクター構築が目を引きました。

私見ですが、「たった3分のトラックで何が言えるのか。」と苛立つジェリーが、このミュージカルの登場人物として2時間40分の時間を与えられることで、どこか救われたように感じさせる。これも舞台マジックの粋なのかも知れないなぁと。キャロルの母親役の剣幸は、こういう人だったのだろうと思わせる説得力がとにかく素晴らしく、ザ・アメリカンなキャラで楽しませてくれた敏腕プロデューサー、ドニーを演じる武田真治は、いつでも忙しく時計を気にしていた頃から「君のためならいつだって時間を取るよ。」と言うまでの心情の変化や、最後に少しだけ歌う場面がとってもハートフル。キャロル役の平原さんは、ピアノの前に座った時やマイクの前に立った時、魂から音楽が発散されているようで、本当にキャロル・キングが自分の曲を奏でているようでした。

彼女のナチュラルで無防備な演技に見とれていたら、カーテンコールの挨拶で「舞台のオモテとウラで頑張ってくれているスタッフの皆さんありがと〜!」と舞台袖でブンブン手を振っていて、ナチュラルで無防備なのは地なのかもしれないと(笑)、歌手としての大きさにも胸を打たれました。今回のキャストの皆さんからは、歌のチカラ、歌い手さんの劇場全体を引き受ける包容力をすごく感じましたが、往年の有名曲を違和感なく日本語で聴かせてくれた訳詞の湯川れい子さん、劇場をコンサートホールのような空間に染め上げた指揮・オーケストラの皆さんにも大きな拍手を贈りたいと思います!

ひとりのアーティストが書いた歌の数々がひとつの物語となり、彼女自身の軌跡となり、のちに世界的なシンガーソングライターとなるキャロル・キングの人生は、それ自体が最高にミュージカル的。アンサンブルキャストも含め、気を抜くと二度見することになりそうな個性派パワフルボイスが揃っているだけに、それぞれの感性がぶつかり合う創作のシーンでは「これはミュージカル?コンサート?」とわからなくなる感覚さえしましたが、終わりが近づくにつれ、音楽と共に泣いて笑って生きるミュージシャンの生き様をそのまま見ているかのような高揚感に襲われました。

 

等身大の美しさを教えてくれる、この夏オススメの爽やかミュージカル!

 

苦悩さえも明るいメッセージソングに変えて前へ進むしなやかさ、「ごく普通の女の子が歌うからこそ、普通の人生を送るリスナーに届くんだよ。」という等身大のメッセージ、そんなテーマの本作品のタイトルが『ビューティフル』であること。歌詞に「雨」という言葉が象徴的に使われていることや、舞台アーチを飾る、織り物のように繊細な柄のモチーフ(これは、キャロルが自身の声でレコーディングした大ヒットアルバム「Tapestry(つづれおり)」を連想させます)。きらびやかに見える音楽業界で「普通」の心のまま世界中から愛されるまでになったキャロル・キングが、私たちに贈ってくれた応援歌なのかも、と感じずにはいられない大きくて優しい舞台でした。

耳に心地良いキャロル・キングの音楽と、男性客の心も掴む60年代サウンド。この作品が帝劇の新たな人気レパートリーとなることを祈りつつ、キャロル・キングの自伝でも読んでみようかな。

 

<公演情報>
『ビューティフル』
帝国劇場にて8月26日(土)まで上演中
https://www.tohostage.com/beautiful/

 

※日比谷シャンテでは、パネル展や東京會舘「カフェシャポー」特別メニューなどコラボ企画が開催中!
http://www.hibiya-chanter.com/eventnews/detail/?id=180

 

(文/平野 美奈)